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────“金沢輝明 様 葬儀式場”────と書かれた立て看板の横を、ぐるりと鯨幕が張り巡らされている。直樹は看板から少し離れた場所で、鯨幕を背に立っていた。直樹の祖父母は健在で、直樹は葬式というものに参加したことがない。まさか人生初の見送りが、金沢輝明になるとは思わなかった。
金沢を訪ねてくる弔問客は、年齢層もばらばらで、会話に聞き耳を立てているとほとんどが親戚のようだった。金沢がいつもつるんでいたグループはまだ誰も来ていない。
ちらりと腕時計を見る。あと30分で式が始まる。
朝比奈が現れた。驚いたことにちゃんと礼服を着ていた。いつ会ってもラフな格好しかしていないし、口を開けば非常識なことしか言わないので、おそらく礼節を欠いてくるだろうと予想していた直樹は拍子抜けする。
「朝比奈さんやればできるじゃないですか」
開口一番褒めたたえる直樹に、朝比奈は「は?」と声を出さずに顔をしかめてから、すぐ周囲に視線を走らせた。
「若者といえども、将来無望だと人の集まりもこんなものか」
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