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朝御飯を食べて、ふたりでまったりしてから、散歩でもしようか、って話になった。けいちゃんの家の近くの公園の芝桜が綺麗らしい。
用心のためにけいちゃんは、黒いキャップを目深に被って、あたしはけいちゃんのサングラスを借りて、つけてみた。
「なんか、芸能人のお忍びデートみたい」
くすっと笑うと、けいちゃんも「そうだね」と笑って返してくれた。
彼と彼女で先生と生徒。この関係性を変えられないのなら、いっそ楽しんじゃえ。そんな開き直り。
でも、やっぱり間違ってたのかもしれない。日の当たる道は、卒業までけいちゃんと歩けないかもしれない。
広い公園を、けいちゃんとおしゃべりしながら歩いていたら、遥か前方に沖本さんを見つけてしまった。
「やば」
いちばん最初に気づいたのは、けいちゃんで一言そう呟いて、それとなく遊歩道を脇道に逸れた。
「あの子、隣のクラスの子…だよね?」
けいちゃんに言われて、あたしもサングラスを取って、確かめる。コーギーを連れた沖本さんが、こっちに向かってくる。幸いなことに、彼女はまだあたしたちに気づいていないようだった。
彼女いないんですか? なんて、けいちゃんに問い詰めてた彼女に、あたしとけいちゃんがふたりでいるとこなんて見られたら…。さーっと背筋が寒くなる。
「千帆はこのままUターンして、うちに戻って」
「けいちゃんは?」
「真っ直ぐ行って、公園大回りして戻る。別行動の方がいいだろ」
せっかくのデートを満喫することも出来ない、別行動に寂しくなったけど、ワガママは言えなかった。
「…うん」
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