ふたりのルール

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ぎゅううっっと、痛いくらいの強さで、けいちゃんに抱きしめられた。痛い。苦しい。 「ごめん、千帆」 けいちゃんはそう言って謝るけど、けいちゃんは悪くない。あたしだって、悪くない。 「…お帰り、けいちゃん」 あたしの腕は彼の身体を押し返すのではなく、逆にけいちゃんの背中を引き寄せる。けいちゃんの腕に抱きしめられて、けいちゃんの匂いに包まれて、安心したのに…どうして、泣きそうになるんだろ。 「これ、買ってきた」 あたしの身体をちょっとだけ離して、けいちゃんはポケットを探って、あたしの前にあるものをぶらつかせる。 アルファベットのCとKのチャームのついたキーホルダーに鍵がついてる。 「これって…」 まさかと思いながら、あたしはけいちゃんから貰ったキーホルダーを掌に載せた。 「うちの合鍵。千帆が持ってて」 「…い、いいの?」 嬉しい。けど、いいのかな。そんなためらいを、あたしは拭い切れずにけいちゃんに訊く。いいんだと、あたしにわからせるように、開いたままだったあたしの掌を、けいちゃんは自分の掌で覆って、そのキーホルダーを握らせる。 「千帆に持ってて欲しいんだ。多分さ、これからもこんなことしょっちゅうあるよ。その度に千帆にいやな思いさせたくない。会いたいときはいつでも来ていいよ。あ、ただし、試験前はだめだけど」 「…うん」 小さな鍵に込められたけいちゃんの気持ちが嬉しくて、涙が出てきた。 ひとつずつ決まってくふたりのルール。 制限付きの恋。不自由な交際。 でも、けいちゃんが好きだから、頑張れた。頑張れると、思ってた。 一緒にいるための努力だったら、何でもする。 けど。 あたしはその想いを貫き通せるほど、強くなかった…。そのことに気づくのは、もっとあとだけど。
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