ふたりのルール

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その日の午後の最後の授業はHRだった。席替えと委員会決め。席替えの方は、くじを引くだけだから、すぐに終わる。あたしは18番…って、いちばん後ろの席だ。 普通の生徒なら、喜ぶんだろうけど、泣けてきた。また、けいちゃんが遠くなる。移動は放課後ということで、すぐにクラス委員とか文化祭実行委員とかの選出に移る。 けいちゃんが黒板に丁寧な字で、クラスで決める役員を書いていく。 やりたくなーい、かったるい。教室全体に、そんな空気感を漂う。…だよねえ。全員に割り振られるわけじゃないし、やらなくてすむことなら、極力やりたくない。 「何かやる?」 小声で酒井くんに聞かれた。 「え、誰もいなかったら図書委員くらいなら…」 ラクだし、本は好きだし(けいちゃんが) 「図書? じゃ、一緒にやろ?」 「へ? い、いいけど…」 あたしがぼんやりとした返事をした瞬間、あたしの制服の袖口を酒井くんはパッと掴んだ。そして自分の腕と共に高々とあげる。 「先生、酒井と春日、図書委員立候補しますっ」 う、うそぉぉぉ~。 一瞬だけけいちゃんの目が鋭く光った…気がした。 錯覚かもしれない。寧ろそうであって欲しいというあたしの願望だったのか。次の瞬間には、いつものにこやかなけいちゃんに戻って。 「ほい、酒井、春日…っと」 黒板に名前を書き始めた。なんか、その並びの名前をけいちゃんに書いてもらう、ってのがすごく嫌だ。 ひとつ枠が埋まると、あとは手があげやすいのか、時間内にその他の委員も全部決まった。 LHRからSHRになだれ込み、そのまま今日の授業は全て終了。けいちゃんは何事もなかったかのように出て行く。 たまたま席が隣で、たまたま委員会一緒にやろう、って言われただけで、酒井くんとは何でもないって言わなきゃ。 今すごくけいちゃんと話したかった。カバンも持たずに、あたしは教室を飛び出して、長身の背中を追う。 でも、もうけいちゃんの姿はなかった。 「春日」 あたしを呼んだのは別の声。 「酒井くん…」 「席替えするから、机のけてくれって」 「……」 そういえば、そのためのクジ引きましたっけ。すっかり記憶の彼方に飛んでたくらい、高校生は多忙だ…。あたしは酒井くんに促されて、教室に戻る。 あたしの机は、新しく置かれた机に弾かれて、ぽつんと教卓の隣にあった。みんな大移動中で、教室は騒がしく埃っぽい。S
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