ふたりのルール

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一緒に帰ろうよ、という七海の誘いを断って、あたしは図書室に向かった。そういえば、この学校の図書室に来るのは初めて。 別に用なんかなかったけど。 何となく、けいちゃんと出会った場所も、街の図書館だったから。 所狭しと本棚が置かれ、整然と本が並べられた空間で、あたしはあちこち首をめぐらして本の背表紙を見てるのが好き。本を読まずに、背表紙だけかい、と七海とかには笑われたけど。 「――わかる。タイトルとか装丁で、どんな話なのか想像するの楽しいよな」 けいちゃんだけは笑わないで、賛同してくれた。直感だけで気になった本を、パラパラめくって、その日の気分に合った本を選ぶのが、けいちゃんは好きなんだって。 「お気に入りの作家や、何かで紹介された本よりも、そうやって見つけた本が面白い方が、得な気がする」 そうも、言ってた。本好きのけいちゃん。何となく図書室にい合わせて、出会ったしまったあたし達。 会わなかったら、今頃あたしはどうしてたんだろ。 相変わらず彼氏もいないままで、七海とワイワイ言いながら、高校生活最後の1年を過ごしたのかな。フレンチプレスのコーヒーの味も、男の人の唇の感触も、知らないままだったのかな…。 「何、浸ってんの、お前」 「け、け、けい…せ、先生」 何故か、けいちゃんがいた。本を顎までの高さに積み上げて両手に抱えて。
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