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次の日は、朝イチで俺は木塚に掴まった。どうしても話したいことがある、と木塚は元から鋭い一重の目を尚更光らせた。
「今日は彼女ですか。本当に大人気で羨ましい」
本田先生の本音なんだかやっかみなんだかわからない台詞はうっちゃって、とりあえず廊下に出た。
生徒の登校時間のピークにはまだ早い。運動部は朝練してるし、教室も廊下にも生徒の姿は殆どなかった。それなのに。
「先生、あたし聞いちゃいました、ちぃから」
木塚は慎重に言葉を選んで、そう言った。第三者が聞いても何のことだかさっぱりわからない会話をしてくれた彼女の気遣いに感謝。
「そう…それで? 俺のこと軽蔑する?」
「しません。寧ろ『けいちゃん』が、保身に走って、千帆と別れた時の方が、したと思います。残念イケメンとか言ってますけど、ちぃはけいちゃんのこと大好きだから。それは、見ててわかるから」
残念イケメン…あー、そうなんだ、俺って千帆の中でそういう評価なんだ。なにげに傷つく。
「ありがと」
苦笑いしながら伝えると、俺のためじゃない、とでも言いたげに木塚の表情はきゅっと引き締まった。
「先生が引きずり込んだんだから、千帆のこと最後まで守ってくださいね。面倒になって捨てたりとかナシですよ」
木塚は大まじめに俺に釘をさしてくる。千帆はいい友達持ってるんだな。彼女になら…と秘密を打ち明けた千帆の心理も頷けた。
「その心配はいらねえよ」
千帆との交際を続けるかどうかなんて、大して迷いもしなかったし。
ルールなんて時代に拠って地域に拠って変わる。結局は国をスムーズに運営させるために権力者が創りだしたもの。
たとえば最初から俺が先生で、千帆が生徒だったらまだ違ったけど、あとから割り込んできたルールとか規範に、俺達が飲み込まれるのは、嫌だと思った。
「けど、俺は常にあいつの隣にいれるわけじゃないから、そういう時のフォローは頼むよ、木塚」
厄介なのもいるし。あいつとかあいつとか。
中間試験が終わったら、修学旅行もある。行事のオンパレードに目が回りそうだった。
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