第3章 秘密の重み

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やった、天の助け! え、でも今の話聞いてたの? ふたつの気持ちに揺れながら、顔を上げて声の方を見ると、にっこり笑っていたのは沖本さんだった。 「ごめんなさい、お話聞こえちゃったから。私代われます。遠藤先生。元々何の予定もないですから…もちろん追試も」 わざわざ余計な一言を付け加えるとこに、彼女の悪意を感じたけど、あたしもう大人だから。それに迷惑を掛けてるのはこっちだから、もやもやした思いは、水に流すことにした。 「じゃあお願い…」 「待って、春日」 あたしが下げかけた頭を、けいちゃんが制した。え? 何で? 「こいつらふたりまとめて追試だから。沖本ひとりじゃ、どっちみち足りない。相方の予定までは知らないだろ? 気持ちだけ受け取っておくよ」 「でも…」 言いだした手前引き下がりにくそうな沖本さんに、けいちゃんは笑顔で続けた。 「大丈夫。俺の方から、委員の子にあたってみるから。それで、いいだろ? 春日、酒井」 「あ、はい…」 けいちゃんの意図がわからなくって、あたしは曖昧に頷いた。 「じゃ、代わり決まったら教えるから」 放課後も予定が詰まってるのか、けいちゃんは小走りに階段を降りていく。あとには。あたしと酒井くんと沖本さんが残された。 よく考えたら、直接沖本さんと向き合うのって初めてだ。授業のあとは、けいちゃんを追っかける姿を自分の席から眺めてるだけだし、公園の時は彼女の姿を見た途端逃げ出したし。 沖本さんの好意(で、いいんだよね?)を、けいちゃんが拒んじゃったけど、お礼くらいは言った方がいいよね。この状況で何も話さないのは不自然だよね。 「あ、せっかく言ってくれたのに…」 ごめんなさい、と続けようとしたら、何故か思い切り彼女に睨まれた。敵意さえ滲ませた目。あたしは彼女苦手だけれど、それはいっつもけいちゃんにひっついてる沖本さんに、警戒と嫉妬を抱いてしまうから。 だけど、沖本さんには、あたしを嫌ったり敵視したりする理由はない、はずなのに…。 ぷい、と目線を逸らして行ってしまった彼女を呼び止める勇気なんてなくて、酒井くんと無言で見送ってしまった。 「俺ぇ、あの子苦手…」 彼女の姿が見えなくなってから、酒井くんがつぶやいた正直過ぎるコメントに、あたしは黙って深く深く頷いた。
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