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「自分の気持ちを押し通すのはいいけどさ、酒井。春日の立場も考えてから動けよ。言葉って、銃と一緒だから。一旦放っちゃったらもう、戻せない。春日はお前のこと、間違いなく友達としては好きだろうから、マジで告白なんてされたら、きっと戸惑う」
牽制なのか、アドバイスなのか、自分でもわからなかった。千帆がコイツを嫌いじゃないのは、事実だ。あんだけ俺が言ったのに、一定以上の距離を置かないのは、酒井自身が付きまとってるのもあるだろうけど、千帆も酒井に好意があるからなんだろう。恋愛感情とは別の。
「…わかった」
何がわかったのか、何処までわかったのか、酒井は神妙な面持ちで頷いた。
「俺さあ、こんなキャラでしょ? 友達に恋愛相談するタイプでもないから、人とこういう話、すんの初めてなんだ」
「ああ…」
「だからありがと、遠藤ちゃん。もう1回作戦練ってみる」
作戦? 酒井の言葉は導火線に火をつけないまま投下された爆弾みたいだ。危険で迂闊に取り出せない。
ばかで単純で、真っ直ぐで嘘がない。あいつだったら、千帆はもっと…。
後ろ向きな想像しそうになって、慌てて打ち消した。歴史にIFはない。起きてしまった史実に対して、もしこの時…なんて想定は、ナンセンス以外の何物でもないとされてる。恋も、同じだ。
もしも千帆が酒井と先に出会ってたら? その方が千帆は千帆らしく恋出来たんだろうか…。まだ残ってる紅茶ごと、俺はその想像をゴミ箱に叩き込んだ。
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