第4章 修学旅行とバースデー

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先に部屋に戻れ、と千帆に促して、俺はもう一度空を見た。 千帆を見送ってしばらくしてから、非常階段を降りた。点呼の見回りまではまだある。自販機で何か買って部屋に戻ろう。 自販機の前で俺はしばらく悩んでた。缶コーヒーは好きじゃない。と言って、タリーズもスタバもない。完全カフェインの禁断症状だ。朝、朝食と一緒に出てくる出がらしのドリップコーヒーだけじゃ、全然足りねえ。 「遠藤ちゃん、まだ~?」 焦れたように声を掛けられて、慌ててどいた。俺を押しのけて、自販機の前に立った奴の姿に舌打ちしそうになった。酒井航(ワタル)だった。 買ったペットボトルを受け皿から取り出して、酒井は俺の方を振り返る。 「昨日はすみませんでした、センセ」 急に頭を下げられて、戸惑った。千帆にも言ったけど、見逃そうと思えば見逃せた。それをしなかったのは、結局俺の嫉妬心、狭量のせいだ。素直に非を認められてしまうと、罪悪感が生まれる。 「女の子の部屋に行きたい気持ちはわかるけどな。消灯時間以後はやめとけ」 俺は適当に教師らしく酒井にアドバイスをする。そして、結局紅茶のボタンを押した。がたっと、大きな音を立てて、ペットボトルが落下する。その音に紛れて。 「センセはモテていいよね。恋愛で苦労なんかしたことなさそう」 酒井は何を思ったか、俺にそんなことを言って来た。 「苦労の種類も受け止め方も人それぞれだろ? 俺だって人並みに苦労してるよ」 現に今受難の真っ最中だし。 「なんか、あったのか?」 聞いてほしそうな前ふりをしてきた酒井に尋ねる。酒井は、少し目を泳がせた。脳みそと口が直結して、思ったこと全部そのまま吐き出す彼には、珍しい仕草に見えた。 「センセの周りって、いっつも女の子いるでしょ? あの中の子…好きになったりしないの?」 「ないない。だって、あれ本気じゃないし」 制服着てる間しか見えない幻覚みたいなモノだよなあ。教師への憧れなんて。 「そうなの? 例えば、例えば、カノジョいる子好きになったりとか、しないの? 好きになっちゃいけない相手とか」 全然例えになってないような気がするのは、俺だけだろうか…。お前、今、特定の女子の顔浮かべてないか?
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