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SIDE Keishi
急に暗くなった空から、大粒の雨が落ち始める。自由時間の終了を告げるみたいなその雨に、みんな慌てて戻ってきて、各クラスのバスに乗り込む。そんな人波の中に、酒井や木塚もいた。
「……?」
彼らの中にあるべき姿がないことに気づいて、木塚に声を掛けた。
「春日は?」
俺の質問の意味がわからないと言うように、木塚は首を傾げた。
「ちぃは先に戻ってるって1時間も前に別れましたけど…」
「戻ってねえよ」
慌てて名簿を確認する。戻ってきた生徒の名をチェックする各クラスの名簿。千帆のところは空欄だ。
木塚の顔色が蒼白になって、酒井は「俺、別れた場所行ってあいつ、探してくる」と雨の中を再び戻ろうとする。
浮足立った俺と彼らの様子に、本田先生が「どうしました?」と不審がった。
「単独行動した生徒がひとり、戻ってきてないんです。とっくに戻ってていいはずなのに」
「名前は?」
「春日千帆」
「先生のクラスの生徒ですね」
「ええ」
厄介事が起きたな…と、溜息をついた本田先生の横で、木塚がスマホを操作してる。恐らく千帆に掛けてるのだろう。しかし彼女の居場所を突き止めるはずの着信音は、何故か俺達のすぐ近くで鳴り響いた。
反射的に音のする方を振り返る。すると、自分の分の他にもうひとつバッグを手にした沖本が立ってた。
「沖本…?」
俺や木塚の不思議そうな視線に沖本は愉快げに口角を上げた。何か知ってる。そんな笑顔だった。
「それ、ちぃのバッグ。どうして沖本さんが…」
「春日さんから預かったの。大切なもの失くしちゃったから、探してから戻る、って。遠藤先生に伝えて欲しい、って伝言つきで」
千帆の手がかりが掴めたのだから、ほっとしていい場面なのに、持って回ったような沖本の言い方に増幅するのは不安だけだ。
大切な、もの…?
「春日は何処にいるんだ、沖本」
バッグにはスマホも財布も入ってる、これじゃ千帆は戻って来たくても戻って来れないじゃないか、悪意しか感じない。
「こっち来い」
怒りが教師としての領分を侵してく。彼女の腕を引いて、ひと目につかない駐車所の奥に移動した。
「春日は何処?」
「そんなに彼女が気になります?」
「…当たり前だろ」
千帆のバッグを俺の手に戻して、駐車場のコンクリの壁に手をついて、自分の身体と壁で挟むようにして沖本を見下ろした。
「先生…?」
「早く教えろよ」
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