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SIDE Keishi
無人の教室から、校庭が見えた。朝から容赦ない夏の陽光を浴びながら、夏服の男女が歩いているのが見えた。
腕と腕がぶつからないくらいの距離で、仲よさげに登校してくる姿は、もう学校内でも有名だ。――酒井と千帆。
釈然としないが、おかげでネットに流れた情報はガセだと、いち早く噂も下火になったから、結果には納得してる。
あと、俺のやるべきことはもうひとつ――。
コンコンとノックの音が聞こえた。「どうぞ」と言うと、ドアが開いて、薄い笑みを浮かべながら、彼女が入ってくる。
来ないんじゃないかと危ぶんでたのに、長年染み付いた優等生の習性は治らないらしい。指定した時間に俺の言った教室に、沖本綾乃は現れて、何食わぬ顔で俺の前に立った。座って、と目配せすると、教壇のいちばん前の席に腰掛ける。
「たかが、期末テストが前回より20点悪かっただけで呼び出しですか? 追試でもないのに。あ、春日さん、今回は大丈夫だったんですか?」
皮肉に笑いながら、沖本は俺を見据えた。その瞳に以前までの少女マンガ風に表現するなら、やたら瞳がきらきらするような、そんな煌きはない。愛と憎しみは紙一重というか、感情が行動に直結するらしく、修学旅行以降、ピタリと沖本は俺の周りをうろうろするのをやめていた。
「いや、それは名目かな…」
言いながら、俺はボタンダウンのシャツから、プリントを1枚取り出して、沖本の机の上に置いた。
「これ、やったの沖本だよね」
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