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以前に校長室で千帆と俺が見せられたLINEのトーク履歴。じっと目で追う沖本の表情に変化はなかった。千帆ならとっくに目が泳ぎだしてる。馬鹿正直な彼女と比べてもしょうがないが、沖本の腹の座り方にはある意味感心する。
「…わたしのところにも流れてきましたよ。でも、どうして」
「沖本以外考えられないから」
言うと、沖本は小馬鹿にしたようにくすっと笑った。
「わたしが先生と春日さんの関係、知ってたからですか? それだけで疑われちゃうんですか?」
「沖本の邪推でしょ。俺と春日はそんな関係じゃないよ」
「嘘。だってあの時」
「この時?」
取り出したスマホを机の上に置いて、あるデータを再生する。
『――先生がキスしてくれたら言う』
聞こえたきた自分の声に、沖本は目を瞠った。千帆がいなくなった際の長崎の駐車場でのやりとりだ。
「…録ってたんだ…」
「ああ。一応ね。お前が聞いたら消していいよ」
沖本はもう一度繰り返し再生する。何度聞いても、言葉では、俺は認めてないはずだ。俺の切羽詰まった態度から、千帆を心配してうろたえる表情から、沖本は自分の推理が正しいと確信したのだろうけれど、旅が終わって1ヶ月も経ってしまえば、そんな記憶も頼りないものになる。
沖本はまだ、俺と千帆の接点を見出したいのか。
「…先生、これスマホ、アドレスとかも見ていい?」
「いいよ」
他の証拠を探しだそうと、沖本は必死にスマホを操作してる。アドレス帳、メールの送受信履歴。カメラのメモリのフォルダ。
「…春日さんの名前、いっこもない」
「納得した?」
それでも沖本はまだ自分の想像に固執していた。
「でも指輪…」
しつこいなあ、こいつ。念には念を入れて作った写真が、役に立つとは思わなかった。
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