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「おかえり、センセ」
人懐っこい笑顔で、酒井は俺の前方を塞ぐ。はっきり言って今、見たい顔じゃねえんだけどな。
「お前もお疲れ様。…消灯まで、あと15分だぞ。最後の夜に、俺なんか待ちぶせしてていいのか?」
「春日…どう?」
「俺が帰るときは眠ってた。呼吸も落ち着いてたし、大丈夫じゃないかな」
ほっとした顔を見せた酒井だが、すぐに立ち去ろうとはしなかった。
「遠藤ちゃんに話したいことあるんだよね、俺。部屋行ってもいい?」
「…ここじゃダメなのか?」
「謎は全て解けた――んだよ、俺」
人差し指を突き立てて、どこぞの探偵アニメよろしくドヤ顔で酒井は言った。
「…殺人事件は起きてなかったはずだけど」
そっけなく言って、俺は来たエレベーターに乗り込む、カードキーを確認すると、8階の部屋らしかった。俺が押すより前に、酒井がそのボタンを押して、当然のように乗り込んでくる。
「誰が殺人事件の犯人がわかったって言ったよ。春日のカレシ。俺の推理が正しければ、全ての辻褄が合うんだ」
「はあ…」
俺はやる気のない相槌を打ちながら、カードキーを部屋の入口に差し込む。緑のランプが点いて、ロックが解除される。
酒井の言いたいことはもうわかってる。後は俺がどうするか――だ。名探偵と対峙する真犯人て、心の隅でその闇を暴かれるのを願ってるのかもしれない――、そう思いながらドアを開けて、酒井を招き入れた。
「春日のカレシって…遠藤ちゃんでしょ」
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