第5章 夏の迷い道

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そっか。『彼女』だったら、当然そういうのも行くよね。総合体育館、駅からバスが出てるよね。金曜だったら、予定ないし。 「いいよ、行く」 あたしのOKの返事は酒井くんにはすごく意外だったらしい。 「え、マジ? ホントに? 俺、平泳ぎの400メートル1種目しか出ないから、退屈かもよ、春日」 マイナス条件と提示しながらも、酒井くんは嬉しそう。 「七海誘って行こうかな、と思うんだけどダメ?」 「いいよ、全然。つか、絶対その方がいい。ひとりだと、暇だよ。俺、自分の競技あるから傍にいれないし」 部の大会で選手としてくるんだから、そりゃそうだよね。 「なんか持ってくものとかある? バナーって言うんだっけ、ああいうの作ったりするの?」 「いらねえよ、あんなの。恥ずいから、絶対やめて」 「…そ、そうなんだ」 オリンピックの水泳大会のイメージとは、そりゃ違うらしい。こういうスポーツ大会とは、無縁の生活送ってきたから。 「春日おもしれえな」 「…無知で、すみません」 「いや。春日がきてくれれば、俺はそれだけで…あ」 「何?」 「調子こいて、もう1個お願い聞いてくれる?」 にやりと笑って酒井くんは言った。
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