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~★~☆~★~☆~
まだ無人のプールは窓から差し込む光に水面が揺れている。これから始まる戦いを待ちわびてるように。
市の総合体育館の屋内プール。あたしと七海は1コース側のいちばん客席の、前から4列目に席を取った。
「意外に人いるねえ」
ぐるりと会場を見回して、七海が感心したように呟いた。
「ごめんね、七海付きあわせて」
「いや、気にしないでいいよ。どうせ暇だったし。酒井何出るんだっけ」
「400メートルの平泳ぎ」
「400…持久力あるなあ、あいつ」
専門知識なんかないあたしと七海は、ぼんやりと繰り広げられる競泳を見てた。時々南高の名前が出ると、知らない子でも応援したりしながら。
プログラムの中ほどで酒井くんが出てきた。5コースにいた酒井くんは、「酒井―っ」って客席から飛んできた声に、両手を振って答える。緊張とかしなそうだなあ。酒井くんを見てたら、ばちっと目が合った。
プールサイドとここまでは、かなり距離あるのに。でも、酒井くんには、あたしがわかったらしい。酒井くんは口元に手を当てて、無音で口の形だけを変えて、あたしに伝える。
「や・く・そ・く、覚えてるよな」
お、覚えてるよ、でも…。
選手全員がコールされると、すぐにレースがスタートする。水を得た魚。そんな言葉を思い出したくらい、水の中の酒井くんは綺麗だった。力強いストロークで、水をかき分けてぐんぐん進む。
酒井くんと隣のコースの子がレースを引っ張っていってる。抜きつ抜かれつで、最後まデッドヒート、ゴールについたのも、あたしの目には酒井くんの方が早くみえたけど、タッチの差で2位だった。
タイムと順位の出た電光掲示板を見て、酒井くんは一瞬悔しそうに天を仰いで、それからにこっと笑って、1位の子に握手を求めてた。
やばい、約束果たせなかった。
あたしは会場を出て、通路に飛び出す。階段を降りていったら、丁度選手の控室に向かうらしい酒井くんに出くわした。
「春日」
高校の名前の入ったジャージを着て、両肩にバスタオルを掛けた酒井くん。まだ、試合の興奮が冷めないのか、上ずった声であたしの名前を呼ぶ。
「さ、酒井くん」
「見てた?」
「う、うん」
「お前、約束守ってくれなかっただろ~」
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