第5章 夏の迷い道

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七海と帰るつもりだったのに、みんなに「いやいやここは、酒井と帰るべきでしょ」なんて言われて、結局みんなで酒井くんを待つことにした。選手側の通用口で待ってると、水泳部員が出てくる。酒井くんは列のいちばん最後だった。 「酒井、カッコ良かったよ、一瞬だったけど」 「おつかれ、彼女置いてくから、慰めてもらえ」 なんて口々に好き勝手言って、あたしと酒井くんを残してみんな先に帰っちゃう。なんか、気まずい。 「ホントは違うのにな」 3年4組の集団が遠ざかってから、酒井くんが可笑しそうに呟く。 「遠藤ちゃんも来てたろ」 「…う、うん」 「俺を激励しにかな、春日を心配してかな」 酒井くんは七海と同じことを言う。どっちも、正解じゃないかな。けいちゃんは意外と酒井くんを気に入ってると思う。 確証はないから、無言のままだったあたしをどうとらえたのか、酒井くんはふっと笑った。 「卑怯だよな、俺。大丈夫、わかってるから。春日が誰のものか、ってことくらい。だから――ありがと。来てくれて。あと、春日の声、聞こえたよ。すっげー嬉しかった」 「ホントに?」 「うん、なんか、脳にダイレクトに響いた。あ。これ絶対春日の声だ、って」 「却って無理させちゃったみたいで」 明らかに酒井くんはオーバーペースで泳いでた。ペース崩して結局、最後は最下位にまで落ちちゃった成績、あたしにも責任の一端があるように思っちゃう。でも、あたしの言葉を遮って、酒井くんは得意気に言った。 「いやいいの。あれ、俺の作戦!」 「え?」 「どうせ県大会進めないのわかってたし、だったら一瞬でも春日にいいとこ見せたいのと、お前の言葉ひとつで、俺こんなにパワー出るんだ、ってわかって欲しかったから」 「……」 捨て身な酒井くんの作戦、けいちゃん見抜いてた? うかうかしてられない、って焦りは酒井くんの気持ちの本気の度合いを測ったから? けいちゃんといる時とは、全く違う苦しさを、酒井くんといると覚えてしまう。――あたしのいるべき場所は、ここじゃないのに。
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