第5章 夏の迷い道

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丁度、大会が終わった頃合いのせいか、体育館最寄りのバス停は長い行列が出来てた。 「1本待つなら、歩こうか」 駅までの距離は1キロちょっと。15分に1本しかないバスを待つよりかは、徒歩の方が早いかもしれない。酒井くんの提案にあたしも頷いて、舗道を歩き始めた。 「もう引退なんだってね。寂しくなる?」 「あ、いや、まだ実感湧かねえ。夏休み暑いから、学校に泳ぎに行こうぜ、なんて3年で話してるくらいだし」 「そうなんだ。じゃあ、まだ泳ぐんだね」 酒井くんの綺麗なフォームがまた頭の中でリプレイされた。 「俺さあ、体育学科のある学校進学したいんだよね。そこで生涯スポーツ、っていうの? ほら、スポーツと健康って切り離せないし、みんながみんな、オリンピック目指して、泳いだり走ったりしてるわけじゃないじゃん。個人個人がスポーツと関わったり、モチベーション保っていられるにはどうしたらいいか、みたいの学びたいんだよね。水泳も何らかの形では続けたいし」 酒井くんは将来やりたいことがちゃんと決まってるんだ。試合で負けても、部活を引退しても、次に進むべき道をちゃんと見据えてる。 「…酒井くんも真面目に考えてるんだね」 進路希望は、あたしの偏差値に見合った大学選んだだけ。あたしだけ何も決まってなくて、やりたいことも取り柄もなくって嫌になる。 「遠藤ちゃんは何も言わないの?」 「学部も職業も人は、ひとつずつしか選べない。悩んで当然だから、じっくり考えな、って」 「ああ、なんか遠藤ちゃんぽーい、言いそーっ」 そうそう意外にけいちゃん、説教好きだから。 「俺、でもあの人好き。先生としても、人間としても」 「…そうなの?」 「今日だって、お前のこと、俺に残してくし。大人の余裕? 悔しいけど、男として憧れる」 …うん。あたしもけいちゃん好き。って、でもそれは、酒井くんの前で言っちゃいけないよね。でも、あたしの気持ちは駄々漏れだったらしい。 「…春日、にやけ過ぎ」 ちょっとだけ不貞腐れたように、酒井くんはあたしのあほ面を指摘した。 「けど、あと5年経てば、俺も遠藤ちゃんよりいい男になるかもしんねえよ?」 酒井くんは夏のおひさまみたい。からっと、時に眩しいくらいに、照りつけてくる。
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