第6章 初めての夜、初めての朝

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バタバタ、ドタドタ…足音がうるさい。 お母さん、なんでこんな何回も行ったり来たりするの? と過ぎ去ってはまた響きだす足音を煩わしく思ってから、覚醒する。 ここ、自分ちじゃなかったっけ。 はっと横を見ると、けいちゃんの寝顔があった。うわうわうわ、けいちゃんの寝顔。一晩中この横で寝こけてたにも関わらず、貴重な瞬間に立ち会ってることに気がついて、スマホを取ってこようと、けいちゃんの腕の中から抜けだそうとする。 その瞬間。 「――行くな!」 けいちゃんに突然腕を掴まれた。 「ひゃあ…っ」 突然けいちゃんの低い声で言われて、つい悲鳴みたいな声が出た。 「あ…」 けいちゃんは夢と現の狭間だったのか、あたしの顔を見て、自分まで驚いた顔してた。夢でも見てたのかな。 「ごめん、突然大きな声出して」 「ううん」 「何処行こうとしたの? 千帆」 「け、けいちゃんの寝顔…」 って、もう起きてるし。ああ、シャッターチャンス…。 「俺の寝顔がどうかした?」 「い、いえ。お、おはようございます」 「おはよ、寝れた?」 「はい、ぐっすり」 あたしの受け答えに、けいちゃんはくすくす笑い出す。 「千帆ってさ、嘘ついたり後ろめたいことあると、敬語になるよね」 「…そ、そんなことないです…よっ」 「そう? で、何しようとしてたの?」 「けいちゃんの寝顔、写メに収めようかと…」 「撮ってどうするの」 「あたしの癒やしにしようかと…」 「そのうち珍しくもなんともなくなると思うけど」 さらっと凄いこと言い放って、けいちゃんは自分のスマホを手にしてから、あたしの肩を抱き寄せた。目一杯腕を伸ばして、高く掲げられたスマホは、嫌な予感しかしない。 「どうせなら一緒に撮ろうよ。千帆、スマイル」 えっ、マジで? けいちゃん、あたし、全裸のまま…。慌てて、シーツで胸元隠して、けいちゃんの腕の先を見る。 カシャ。シャッター音がして、けいちゃんは満足気に画面を覗きこんだ。 「初めての朝記念。画像送る?」 「要らないっ」 誰かに見つかったらどーすんの、それ。 何かが変わるのかな、とちょっと期待と不安だったのに、結局あたしたちはあんまり変化なく、ばかっぷる全開な朝を迎えてた。
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