第6章 初めての夜、初めての朝

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『どっか行こうか』 けいちゃんからのスペシャルな誘い。行き先を考えて考えて、結局遊園地にした。絶叫マシンで有名なリゾート地の遊園地。ちょっと遠いけど。 「ま、あそこまで行きゃ、南高校の関係者はいないだろ」 けいちゃんも納得してくれたから。 駅だと目立つから、電車の中で待ち合わせ。予めけいちゃんが取ってくれた特急電車の座席を探す。 なんか、まんま不倫旅行みたい…。そわそわしながら、客席を見回してたら、後ろから着てたキャミの裾を引かれた。 「何処見てんの、千帆」 (うそっ) 驚いて振り返ると、ブランドのロゴの入ったキャップを目深に被ったけいちゃんが、斜め後ろの席に座ってた。 「けいちゃん」 帽子被ってたからわかんなかった。グレーのシャツは前空きでインナーに黒のカットソー、ゆるっとした白いチノパンに黒いスニーカー。今日もけいちゃんはカッコいい。 「通路側? 窓側? どっちいい?」 「…窓」 「OK」 けいちゃんは一旦立ち上がって、あたしを先に座らせてくれる。 動き出した窓の風景は、いつも見てる景色なのに、いつもと全く違って見えた。これから行く場所は、あたしもけいちゃんも知らない場所。 「朝飯食ってきた?」 「来たよ」 「俺食ってない。食べていい?」 「うん」 けいちゃんは駅のコーヒースタンドで買ってきたらしいコーヒーとサンドイッチを座席についてる折りたたみ式のテーブルに載せる。 「これ、千帆の」 そう言ってカフェオレをあたしの席の前に置いてくれた。 「それ何?」 「サーモンと水菜のサンドイッチ。食べる?」 「え、いいの? じゃあ、ちょっとだけ」 「いいよ、はい、あーん」 けいちゃんは持ってたパンをあたしの口元に持ってくる。具沢山のサンドイッチは大きな口開けないと入りきらなくて、かぷっと齧りついた。 「でかい口」 「えーひろーい」 パンをもぐもぐと咀嚼しながら、けいちゃんに文句を言う。 「あはは、嘘だよ、可愛いよ。ほら、もっと食べていいから」 また差し出されたパンに、あたしはもう1回かぶりついた。今度は出来るだけ口を開けないようにして。 うん、美味しい。味わって食べてる姿に、けいちゃんは目を細める。 「今日はさ、千帆。何でも言っていいよ。いつも我慢させてるから、ワガママ全部聞いてやる」
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