第6章 初めての夜、初めての朝

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あたしとけいちゃんはいつの間にか、手を繋いだまま眠ってて、車内のざわついた様子で目が覚めた。 「やべ、今何処?」 「え、っと」 丁度掛かったアナウンスで次が降りる駅と知って、ふう、と安堵の溜息ついて、降りる準備を始めた。 「けいちゃん、来たことある? この遊園地」 「初めて。千帆は?」 「あたしも初めて」 駅を降りると、すぐに入場口があって、様々なアトラクションの向こうに富士山が見えた。 「わあ」 「すげーロケーション」 あたしはテンションマックスで、「こっちこっち」とけいちゃんの手を引いて、走る。最初に乗るのは、コレ、って決めてあったから。 「最高速度170キロ越えってありえね~」 脇腹抑えて、ふらふらしながら、けいちゃんが歩く。世界最高速度のローラーコースターのスピードは凄まじかった。 「スピード感ハンパなかったね! 超気持ちよかった。次はねえ」 パンフレット片手に、次のターゲットを探し始めるあたしに、けいちゃんは苦笑いする。 「若いねえ、千帆」 「けいちゃんがおじさんなんだよ」 「23の男掴まえて、おじさんとか言うなよ」 「ねえねえ、回転数が世界一なのと、落下傾斜角が世界一なの、どっちがいいかな」 「…どっちでもいいよ」 けいちゃんは、げんなりしながら投げやりに言った。まだ、最初のアトラクション終わったばっかりなのに。 最終的に両方乗るのなら、近い方にしておけば? けいちゃんのアドバイスで、並んだコースターは90分待ちの立て看板があった。…平日なのに、さすが夏休み。 「この炎天下で90分」 大きくため息をついてから、帽子のツバを持って、けいちゃんが襟元に風を仰ぐ。けいちゃんの素顔を見て、並んだ列のいくつかの女の子同士のグループが、こっちを見てひそひそ話してる。 …学校じゃ、けいちゃんのイケメンぶりにみんな慣れてきたから、この感じ久しぶり。 かっこ良くても好みでもダメだもん。…あたしのだから。 「あの人カッコイイ」あたしと同じくらいの女の子4人組のぼそっとした呟きに、対抗するようにけいちゃんに腕に腕を絡めた。 「どしたの、千帆」 「けいちゃんはあたしのだってアピってみた」 「何だそれ。じゃ、俺もやってみる」 けいちゃんは笑いながらも、あたしの腕をそのままにしておいてくれる。 …時間、止まればいいのにな。
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