第6章 初めての夜、初めての朝

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あたしの願いに反して、楽しい時間て、あっという間に過ぎてっちゃう。絶叫マシンは乗りつくし、お化け屋敷も来た時は鮮やかなスカイブルーだった空が茜色に輝きだし、富士山も染まっていった。 広場の大きな時計を見ながら、けいちゃんが呟く。 「あと、1、2個乗れるかな。千帆。乗ってないのなんだっけ」 1日の終りを感じさせる台詞は、今日が楽しかった分だけ余計に胸をきしませた。 「…観覧車」 答えた瞬間に、じわっと涙が浮かんだ。乗ったら終わっちゃう? だったらまだ、乗りたくない。 「な…何で泣いてるの、千帆」 けいちゃんは心底訳がわからない、って顔をして驚く。 「…帰りたくない」 溢れた感情をそのまま声にしたら、けいちゃんはすごく困った顔をした。ああ、やっぱりダメなのか。けいちゃんの表情で答えはわかっちゃったのに、あたしは尚も往生際悪く足掻く。 「ワガママ何でも聞いてくれる、って言ったじゃん」 あたしはもう涙声になってた。言い終わって、すんと鼻を啜るとけいちゃんは、あたしの泣き顔を他の人から隠すように、自分の被ってたキャップを目深に被せた。 「千帆」 窘めるようにあたしの名前を呼ぶけいちゃん。 何でダメなの。外泊だってセックスだって、周りの子みんなやってる。どうしてあたしとけいちゃんだけ、人前で手をつなぐことも、名前を呼び合うことも出来ないの? 「…今日だけで、いいから。もう絶対、こんなこと言って困らせないから」 帽子のツバの下で、あたしはぽろぽろ涙をこぼしてた。ホントはこんな風に言うつもりじゃなかったのに。もっとさり気なく、傍にいたい、って言いたかったのに。 「だってお前、家にはなんて言うの」 「七海たちと泊まるから、ってもう言ってきてある」 「――!」 あたしの大胆で周到な計画に、けいちゃんは目を瞠る。 「あ、呆れた?」 「いや…女の子って凄いね…」 凄い、はいい意味なのか悪い意味なのか。聞いてみる勇気なんてない。あたしとけいちゃんの間に流れる沈黙。 次に言葉を発した方が折れてしまう気がして、あたしは頑なに黙ってた。けいちゃんも何も言わない。そんな根比べみたいなことをしてたあたしたちの間を割くように。 「…慧史?」 こんな地元から特急で2時間も離れた遊園地で、誰かがけいちゃんの名前を呼んだ。
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