第8章 文化祭と彼と彼女

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あたしは何も知らなかった。あたしといることで、けいちゃんがどれだけリスクを負ってるかなんて…。それでもあたしといてくれた、けいちゃんの覚悟なんて。 「話してくださるんですか? 本当のことを」 お母さんはけいちゃんに逆に問いかけられて、けいちゃんは大きく頷いた。 家にはお父さんがいるからと断られ、外聞もある話だから…と、結局公園の駐車場に車を停めなおして、その近くのベンチで話しをした。風が吹くと、頭上の木々がざわざわと音を立て、そのうちの何枚かははらはらと落ちて行く。 逆に言えば、秋の夜更けの公園は、それくらいしか物音はしなかった。 付き合い始めた方が、担任の先生になるよりも早かったこと。 けいちゃんの赴任先が、あたしの通う学校だと知って、一度は別れも考えたこと。 でもやっぱり別れられなくて、周囲に内緒で付き合うことをふたりで決めたこと。 お母さんはじぃっとけいちゃんの話に耳を傾けていた。 「僕の話は以上です。お母さんの方から聞きたいことってありますか?」 「事情はわかりました。いろいろ腑に落ちたわ。昔から私には何でも話してくれる子だったのに、付き合ってる人のことを頑なに話してくれないのを、不思議に思っていたんです。ふたつ、確認してもいいですか?」 「はい」 「千帆が持ってたピンキーリング、あれは先生から?」 「…そうです、誕生日プレゼントとして贈りました」 「もうひとつ」 けいちゃんの腕にしがみついて離れないあたしを見て、困ったように笑いながら、お母さんはけいちゃんに聞く。 「この子は随分貴方に気安い態度だけれど…。不躾な問いかけを許してくださいね、 もしやと思いますが、身体の関係はあるのかしら」
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