第8章 文化祭と彼と彼女

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あたしもけいちゃんも、油断と隙があったのかもしれない。 もう半年もこうして秘密で付き合ってて、今まで隠してこれたから…。 自分は視線を逸らしても、お母さんからの視線は矢のように刺さった。痛い。 どうしよう、だってここ自宅から100メートルは離れてて。 時間だって、普段ならお母さん絶対出歩かないような時間なのに。 驚愕が絶望に変わってく。バレちゃったら、あたし達もう一緒にいられない…? 「けいちゃん、車出して!」 逃げられっこないのに、逃げたい一心でそんな無茶を言ってしまう。 「ばか言うなよ、間違いなく事故起きるよ。千帆、顔上げて」 「無理っ、やだっ」 「つったって、俺も顔見られちゃったもん、いまさら逃げられないし、弁解も通用しないよ。――千帆の、お母さんだよね?」 思いの外冷静なけいちゃんに諭されて、あたしはこわごわ顔を上げる。フロントガラス越しにお母さんは、何もかも理解したような顔で、あたしとけいちゃんを見てた――。 まず自分が降りてから、助手席側に回って、動かないままのあたしを、けいちゃんは乱暴なくらいに引っ張った。 そうして、あたしとふたり、お母さんの前に立って、けいちゃんはまず「すみません」と深々と頭を下げた。 「遠藤先生…ですよね、千帆のクラスの担任の」 確認するようなお母さんの言葉。 「はい」 「すみません、と謝るということはふたりの関係を認めるという解釈をしてしまっていいですか?」 お母さんはお母さんですごく冷静だ。ううん、もしかしたら冷静を装ってるのかもしれない。過剰なまでに丁寧な物言いは、感情を敢えて見せまいとしてるみたい。 お母さんの問にけいちゃんは「はい」と短く頷いてから。 「あの。僕と千帆の話を聞いて欲しいんです」 そう言ってもう一度お母さんに頭を下げた。
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