第9章 凍った月

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「私は慧史と別れるつもりなんてなかったもの。見知らぬ土地で、どれだけあなたの声だけでも聞きたいと思ったか…。帰国すれば、また会って誤解が解ければ、やり直せると思ってたのに」 「だからさ、…すれば、って恋愛を仮定だけで語っても意味ないって。俺はもう幸せにしたい、たったひとりを決めちゃったから、みつきはみつきで幸せにしてくれる相手探して」 けいちゃんのセリフに、あたしまで涙が出てきた。どうしてだろ。嬉しいのかやるせないのかわかんないまんま、あたしの涙はシーツを濡らす。 「…わかったわよっ。お幸せに」 最後までみつきさんらしく、強気に言い放つと、みつきさんは出て行って、代わりにパタンと扉が閉められる。けいちゃんとみつきさんの世界が遮断されたみたいに見えた。 「ちーほ、何で泣いてるの?」 床に跪いて、ベッドマットに上半身埋めてたあたしの背中に、けいちゃんが覆いかぶさる。 「今の彼女に元カノとの別れ話聞かせるなんてサイテー」 泣いてる自分が悔しくて恥ずかしくて、あたしはそれだけ言った。 「…うん、ごめん」 「あたしは、絶対けいちゃんと別れないから」 くすっと笑って、けいちゃんはあたしの額を撫でる。思ったより元気そうで安心した…って、やっぱりけいちゃんのためじゃなく、自分のために来たみたい、あたし。 「何で小野先生がいたの?」 あたしが皮肉に聞くと、けいちゃんは苦笑いした。 「ん~、家までとりあえず送って貰った? 他の先生方から車で帰るの危ない、ってさんざん脅されてさ。たまたま小野先生はもう授業なかったから」 「あの人と帰るなら、あたしの目の前でぶっ倒れて欲しかった」 「次は、そうするよ」 けいちゃんは、背中からあたしを抱きしめる。ふっと漏れた呼吸が、熱い。少しかすれた声も、風邪のせいだってわかってるのに、色っぽくって、ドキドキした。 「けいちゃん…」 「あーもう、ダメだ。だから、来てほしくなかったのに」 「え? 何、どういうこと?」 「離したくなくなる…」
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