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何も用事がない日は、いつも酒井くんと帰る。相変わらず続いてる校内だけのフェイクの彼氏。
いい加減、酒井くんは不満に思ったりしないのかな。この発展も解消もしない関係。
「春日~、帰ろうぜ?」
今日もまたいつもみたいに誘われて、あたしは通学用のリュックを背負う。
「スタバのフラペチーノ、新しいフレーバー出たって。帰り、食べて行かねえ?」
酒井くんもあたしの様子がおかしいの、気づいてるのかな。盛り上げるように言われて、あたしは笑顔を作ろうとする。
その時にあることに気づいた。
(生徒手帳がない…)
いつも感じるポケットの膨らみがぺったんこ。急いでリュックを降ろして、中味を全部ぶちまけても、机の中を覗いても出てこない。
(嘘…何処行っちゃったんだろ)
動転した頭で、必死に今日の足取りを振り返った。えっと、朝来た時はちゃんとあって、2時間目に体育があって、4時間目が移動教室。お昼に七海と屋上行って…。
「どうした? 春日」
「ごめん、酒井くん、先に帰ってて」
「え、おい、春日?」
あんな大事なもの落としちゃうなんて、あたしやっぱりどうかしてる。どうしよう。誰かに見つかっちゃったら。
気持ちは焦るのに、足がついて行かない。屋上に向かう階段で、上から降りて来た人に思い切りぶつかった。
「きゃ…っ」
「ご、ごめんなさい」
鼻先を甘いローズの香りが掠める。その香りに不吉なものを感じながら、ゆっくりと顔を上げた。
「…小野、先生」
あたしが呼ぶと、みつきさんは「あら?」と可笑しそうに口元を緩めた。
「偶然ね。春日千帆さん…。さっき、そこで拾ったわよ、貴女の生徒手帳」
手のひらサイズの濃紺の手帳を、みつきさんはサーモンピンクのジャケットのポケットから取り出した。わざわざ、裏表紙の、あたしとけいちゃんの写真を見せつけるようにして。
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