第9章 凍った月

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「…何のことだかわかりません」 「流石にしらばっくれるのは慣れてるわね。そうやっていろんな人に誤魔化してきたんでしょ? 貴女も慧史も。じゃあ、具体的に言うわね。今年の7月25日。山梨県のレジャー施設で、私が慧史に声掛けた時、隣にいたのは貴女だったんでしょ? 逆光で帽子まで被ってたから、はっきり顔覚えてなかったけど、この写真…」 そう言って、みつきさんはあたしが大切に挟んでおいた写真をかざす。 「慧史と貴女の雰囲気とか、慧史の表情でわかった…」 何処かさみしげにみつきさんは呟いた。 「どうせ慧史から、聞いてると思うけど。私、昔彼と付き合ってたの」 「…そう、なんですね」 あたしは慎重に相槌を打つ。まだ、全部バレたわけじゃないもん。まだ、ごまかせる。だから、彼女のカマかけに乗っちゃいけない。 「貴女の大事な写真勝手に見たお詫びに見せてあげる。大学の時の慧史」 そう言って彼女はパスケースの中を開いた。見たくないのに、目が吸い寄せられる。写真て残酷だ。 現在(いま)がどうであれ、切り取った瞬間は永遠に残る。ちょっとだけ髪を明るく染めたけいちゃんは、今より少しあどけなく笑ってる。隣にいるみつきさんの肩をしっかりと抱いて―― こんなけいちゃん、あたし知らない。
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