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それから一時間、私達は色々な話をした。
今までの話やこれからの話。
外を見ると暗い夜に光が多く散りばめられていて、そんな街の景色も見たことのある場所が多くなってきている。
重たい朝と昼をなんとか越え、夕暮れ刻にヒッチハイクを受け止めてくれた運転手さんがいたことで、私はまたこの街で夜を迎えることが出来た。
しかし場所は同じでも昨日と今日とではまた違う夜。明日はまたさらに違った夜になるかもしれない。
それでも逃げずに新しい夜を一日一日とずっと繰り返していくんだ。
「運転手さん、そろそろ大丈夫です」
「え、ここでいいのですか? まだ距離がありますよ?」
「はい。ここでお願いします。残りは自分の足で歩きたいんですよ」
運転手さんは心配そうな顔をしながらも、目の前にあったコンビニに車を止めた。
「本当に大丈夫ですか?」
「本当の、本当に大丈夫です! あ、写真撮ってもらいましょ!」
運転手さんからカメラを受け取った私は、近くにいる男性に声をかけて許可を貰いに行く。
「もう。あなたはせっかちですね」
バタバタと動き回る私についていけない様子の運転手さんの腕を掴み、私は無理矢理隣に引き寄せた。
「ハイ、チーズ」
シャッター音が鳴り響く寸前、私は運転手さんの頬に口を付ける。
写真を撮ってくれた男性は、ニコニコしながらカメラを私に手渡してきた。
運転手さんは顔を赤くし、目を白黒させている。
「これで私も運転手さんの中に残りますか?」
「あのねぇ。変なことを言わないでくださいよ」
困った表情をして少し怒りながら、なんとか誤魔化そうとする運転手さんが可笑しくて、私は噴き出してしまった。運転手さんはそんな私を見て拗ねたようにブスッとしていたが、あまりに笑い続ける私にだんだんと顔が綻びはじめる。
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