第1章

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行き先の書いたダンボールを抱えながら親指を立てる私の目の前を、車が何台も通り過ぎる。 運転手達は私のことを見ているのに、結局みんな前を向いて行ってしまう。 もう一時間もこんな調子。 空も段々と夜に近づいてきていて、赤みを帯び出していた。 あぁ、私は一体なにをしているんだろう。 下を向きながら少しだけ歩いてみるが、ずっと立ってたせいで足に痛みを感じ、すぐに立ち止まる。 冷静に考えると車でもここから家までは二時間かかるのだ。 歩くのは無駄な足掻きでしかない。止めよう。 どうしようもない私は人通りの少ないアスファルトの上に腰を落とした。 アスファルトは日差しが当たっていたせいで僅かに温かい。 「今日は野宿かなぁ」 自分の現状を呟いてみて、私は更に落ち込んだ。 もともと自分のことが嫌いだったけど、更に嫌になる。 なぜ今日に限って私は財布を落としてしまったのだろう。 神様は私に意地悪をするのが本当に好きだ。 昔からそうだった。 運動会の日にばかり風邪を引いたり、落としてしまった眼鏡がたまたま通りがかった人に踏みつけられたり。大事な入試の日に交通事故に巻き込まれたり。 きっと神様は「こうすればお前は辛いと感じるんだろう?」なんてニタニタしながら、私を見ているに違いない。 こんなことなら…… 頭の中で続いて出てきそうになった言葉を無理矢理くしゃくしゃに丸めた。 それをするのは、今日は止めようって決めたじゃないか、と頭の中のもう一人の自分を叱る。 そうだ。今日はとりあえず家に帰ろうとしていたのだ。 そして電車に乗ろうと鞄に手を入れてみれば、あるはずの財布が無くなっていた。 盗まれたのか、落としたのか。 そんなことを今考えても仕方がないから親に電話をしよう。とスマホを取り出すと、画面は真っ暗で動かない。 当たり前だ。私は今日、スマホの充電をわざと切らしていたのだから。 全てが思い通りに行かない。 だから人生は嫌になる。 夕暮れの空を見上げる。 世界はこんなに綺麗なのに、私の人生はどうしてこうも醜いのだろう。 そんな風に悲観していた私を明るい光が照らす。 ふと光の方に目をやると、道に一台の車が止まっていた。 そこから一人の帽子を被った運転手が降りてくる。 黒い車に、見覚えは無いがありきたりなマーク。間違いなくそれはタクシーだった。
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