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「運転手さんは神様なの?」
「いいえ、普通の人ですよ」
優しい声の運転手さんの表情を見ると目が合い、お互いに笑みが溢れる。
私の心も行動も全てを理解してくれていて、さらに救おうとまでしてくれる。
本当に神様のような人。
「あの道にいる人、よく乗せるんですか?」
「よくではないですね。たまにです」
「なぜそんなことするの? タクシー運転手なんだから、仕事しなくちゃ怒られるでしょ?」
私の言葉に運転手さんは、今度ははっきりと声を出して笑った。
「そうですね。仕事はしなくちゃいけない。ただ私は個人タクシーですから怒られはしないんです。あとなぜするかですか?それはですねぇ……」
腕を組んで真剣に悩んだ後、運転手さんは仕事鞄からアルバムを取り出す。
そして私に顔を近付け、それを開いて見せた。
「生きる意味だから、ですかねぇ。あの道でタクシーに乗せた方とは最後に写真を撮ってこのアルバムに挟むようにしてるんですが、みんな笑ってるでしょ? これを見てるとあぁ、私が生きていることには意味があるんだって思うんですよ」
私はそのアルバムのページを一つ一つめくっていく。
みんな目を赤くしながら、それでも笑っていてキラキラしている。
幸せそう。
この人達が今どうしているのか分からないけど、きっと生きていると思える。
「あっーー」
私はふと横を向くと、思った以上に運転手さんの顔が近くにあったために驚いて飛び跳ねてしまい、車の天井で頭をぶつけてしまった。
「近いです!」
「あら、そうでしたか? それはごめんなさい」
アルバムを手渡し頭をさすってみると、少し膨らみが出来ている。
「たんこぶできちゃいましたよ」
「そうですか。でしたらその頭を冷やすためにも少し団子屋にでも寄りませんか?」
運転手さんは私の頭を二、三回撫でた後、シートベルトを締めた。
「美味しい団子屋ですか?」
「美味しいですよ。私が世界で一番好きな団子屋です」
ハンドルを握るとまた無表情に戻り、エンジンをかける。
そうして私達はその運転手さんオススメの団子屋に向かった。
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