第3章

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「あら、拓三さんお久しぶりね」 運転手さんは団子屋の前の僅かなスペースに車を止めると、私が出てくるのを待って、無言で中に入っていく。 すると店の中にいた三十代半ばぐらいの綺麗な女性が店の奥から出てきた。 この人拓三って言うんだ。 なんて考えながら私はただ立っていると、店の女性が私を見て頭を下げてくる。 「今度は可愛い女の子ね」 「そうですね。団子を一つと氷の入った袋を一つあげてください。あと僕にも団子を一つ」 「はいはい」 その女性はどうやら店長のようで、せかせかと動いて団子と氷をすぐに用意した。 私は貰った氷を頭に当てながら、団子を口に入れる。 甘さが一気に口の中に広がり、それはとても美味しかった。 「少しトイレに」 「はいはい」 すぐに全部食べてしまった運転手さんは立ち上がり、トイレに向かう。 すると店長さんと二人きりになり、気まずい空気が流れた。 この人は運転手さんと仲が良いのだろうか。なんて考えていると、店長さんが口を開く。 「私とあの人の関係が気になる?」 私はまた心が読まれてしまったことに動揺し、氷を落とした。 店長さんはそれを拾うと、土を払って手渡してくる。 「そんなにびっくりしなくても。あとなんにもないわよ。私達は」 店長さんは少し寂しそうな横顔を見せ、隠すように笑顔を作った。 「20年ぐらい前かしらねぇ。私の母があの人を拾ってきたのよ」 「運転手さんをですか?」 「ええ、あの道でね」 あの道、とは運転手さんが私を拾ってくれた道のことだろう。 この人もあの道のこと知ってるんだ。 「拓三さんはね、死のうとしてたのよ。けれど死ねずに歩いているところを私の母に見つかって連れてこられたの。私の母ったらこの子の死ぬ気が無くなるまでウチで預かることになったから、 あんたも仲良くしなさい! なんて言ってね」 店長さんはケラケラと笑い、ちょっと待っててねと言うと店の団子を取ってきて食べ始めた。 「運転手さんは結構長くいたんですか?」 団子を全て食べ切った私は串を足元のゴミ箱に入れる。 店長さんはまたちょっと待っててと言うと、次はお茶を二つ持ってきた。
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