第10章 聖夜の奇跡

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「狭いんですけど」 と断ってから、部屋に招き入れた。1DKのアパートが一望出来る廊下に立って、室内をひと通り眺めてから、お父さんは差し出したクッションの上に座った。 「随分整理されてるね。ひとり暮らしの男の部屋はもっとカオスかと思っていたよ」 っていうそれさえも、褒め言葉なのかどうなのか。出したものはすぐに片付けて、毎日掃除機掛けてれば、そんなひどい状態にはならないと思うんだけど…確かに、大学の時に遊びに行ったことのある友人の部屋はカオスだった。俺に言わせりゃ、あんな状態の中で暮らすほうがよっぽど努力を要する。 「炊事も掃除も…ひと通りのことは出来ます」 「じゃあ、特にお嫁さんはいらないね」 うわ。意地悪。 「確かに、家事を行ってもらう家政婦的な役割だけを、妻に求めるのであれば、僕には必要ないでしょうね」 「じゃあなぜ…」 と、問いかけてお父さんは言葉を切った。 「いや、いいや。まずは事実関係を確認したいんだ。君には聞きたいことが山程ある」 …山ほど、っすか。お父さんに会いたいと言ったのはこっちなのに、気分はまるで取り調べ室に連行される参考人気分。就職の際の面接の時よりも、新任の挨拶で講堂の壇上に立った時よりも、緊張した。
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