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お父さんの言わんとしてるところはわかるのだけれど、脳の理解に感情が追いついてこない。まさかそんな。都合のいい解釈をしてるだけじゃないか?
戸惑いと喜びに心の天秤はグラグラ揺れる。お父さんは俺に一度顔を綻ばせてから、肩に置いてた手を、スーツのスラックスの横にぴたりとつけて、頭を下げた。
「娘をどうかよろしくお願いします」
託された想いの大きさに、眦の先から、喉の奥から、こみ上げる熱いものを抑えられなくて、俺は口を手で覆った。やばい、ちょっと待って。これは、まずい。俺、カッコ悪過ぎ。
「ありがとうございます…」
潤んだ声で、どうにかこうにか俺はそれだけ言った。
「千帆の受験もある。家とか時期とか、ま、具体的なことはまた話しましょう。君の両親ともお話したいし」
そう言い置いて、今度こそお父さんは帰って行った。
なんとも言えない達成感と幸福感に包まれて、俺はしばらくその場を動けなかった。
…千帆に、どうやって伝えよう…。
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