第10章 聖夜の奇跡

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つい4時間程前に、教室から姿を消したけいちゃんが、あたしの目の前に立ってた。 「け、いちゃん…」 半信半疑で呼んでみたけど、まだ信じられない。何、これ? 白昼夢? それとも3D映像? な~んて思って、咄嗟に後ろ振り返ってみたけど、もちろん何もない。 「こんばんは、千帆」 あたしの動揺っぷりにけいちゃんは、にこにこ笑いながら言う。 「ほ、本物?」 「本物だよ」 と、上から降りてきて、あたしの頭を撫でた手のひらは、いつものけいちゃんのと同じ感触だった。 「慧史くん、いらっしゃい」 「お邪魔します」 キッチンから出てきたお母さんは当たり前みたいに、けいちゃんを出迎えてる。じゃあ、お母さんの言ってたお客さまって、けいちゃんってことだよね。 何で、どうして、いつのまに? 混乱してるあたしの横で、けいちゃんはスリッパに履き替えて、お母さんに「これ安物のワインですけど」なんて、フルボトルのワインを渡してる。 「あら、やだ嬉しい。私とお父さんが結婚した年のね」 そして、嬉しそうに受け取るお母さん。なんか誰と誰が恋人同士なんだっけ?って前提から疑いたくなる事態だ。 「お母さんばっかりずるい」 拗ねるとけいちゃんが「わかってるよ」としたり顔で、もうひとつの紙袋をあたしに渡す。 「千帆はこれね。ノンアルコールのカクテル持ってきたから」 めちゃくちゃ子ども扱いじゃん。ズレまくってるけいちゃんの気遣いに、あたしのイライラは最高潮。 「そうじゃなくてっ。何でけいちゃんがここ…」 「お母さんがお呼びしたのよ。日頃お世話になってるし、ふたりきりで会っちゃだめ、って言ったのもお母さんだから。武士の情け、ってやつよ」 お母さんはしれっと答えて、キッチンに戻っていく。意味がわかんない。あたしはお母さんの背中と、けいちゃんの横顔を交互に見た。 けいちゃんと過ごせるクリスマスは嬉しい。でも、あたしだけ仲間外れだった感じが、悔しい。 「それならそれで、教えてくれたって…」 「クリスマスだからサプライズ、あった方がいいんじゃない?ってお母さんが言うから、内緒にしてた、ごめんね」 むくれるあたしをけいちゃんが宥める。 「…裏切り者ぉ」 「言葉悪いね、千帆」
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