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「寂しいこと言うなよ。何、拗ねてるの?」
「だって、けいちゃんとお父さんでいろんなこと、どんどん決めてっちゃうんだもん。あたしの意見なんて、聞いてくれないで。そりゃあたし、未成年だし、子どもだけど。けいちゃんの奥さんになるの、あたしだよね?」
顔が見えてないのを幸いに、あたしは溜まってた我儘をここぞとばかりに放出した。あたしの胸の上でクロスされてたけいちゃんの腕が解けて。
「あ~」
と、けいちゃんはけいちゃんらしいほわんとした声でぼやいて、頭を掻いた。
「千帆を子ども扱いしたり、蔑ろにしてるつもりはなかったよ。でも、そう感じさせるような行動取ってたなら、ごめん」
「…せっかくのイブなのに、あたしずっともやもやムカムカしてる」
「機嫌直して、千帆。ほら、飴あげるから」
そう言ってけいちゃんは、コートのポケットに右手を突っ込んだ。
「だからそれが子ども扱い」
「いいから手出してみ?」
2回めはさっきより強い口調で、けいちゃんが言う。したかなく振り返って、あたしは右手を開いて、けいちゃんの前に差し伸べた。握られたけいちゃんの右手が開かれて、あたしのてのひらに何か落ちてくる。もちろんそれは、飴なんかじゃなかった。
「ま、お約束――ってやつ? ベタで申し訳ないけど。それとも、これもお前は、『勝手に決めた』って拗ねる?」
あたしは涙目になりながら、首を真横に何回も振った。そんな傲慢で罰当たりなこと出来ない。
けいちゃんの手から、あたしの手に移されたのは、真っ直ぐなアームの中央に、ダイヤが煌めく銀色の指輪だった。
「千帆はこれから俺と一緒に歩いて俺と生きていくんだろ?」
「…うん」
「じゃあ、言いたいことあるなら、拗ねないで、ちゃんと言って。ちゃんと聞くから。言葉が足りなくて、わかりあえなくて、大事な人を失う真似は、もう二度としたくないから…」
何でこの場で、みつきさん思い出させるようなこと言うの? でも、ダメダメなとこ知ってても、あたしのけいちゃんへの気持ちが減ったりしぼんだりすることはない。
この人の傍にいたい。ずっと。そう決めたから、あたしはプロポーズ受けたのに。
「ごめん、なさい…」
「ううん、俺も焦ってたのかも。時間足りないのわかってるし、千帆は受験生だから、負担は掛けたくなかったし」
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