第10章 聖夜の奇跡

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けいちゃんの腕にくるまれて、幸せの余韻に浸ってたら、突然けいちゃんが現実的な質問をしてきた。 「千帆、俺の家の家賃いくらか知ってる?」 「8万くらい?」 「惜しい、もうちょっと。駐車場込で9万ちょっとなんだよね」 「たかーい」 「なのに1DK、世知辛い世の中だよねえ。千帆と住むには手狭だから、どっちみち引っ越そうとは思ってたんだけど」 けいちゃんは、ぐるりと室内を見回す。 「ここ、ただで借りられるなら悪くないよね」 「ええっ? こんなボロいのに?」 あたしのバラ色の新婚生活が、なんだかセピアにくすんでく。 「つーかお父さん、ホントに千帆を愛してて、心配でしょうがないんだろうね」 「えっ。単に古い家の管理押し付けようとしてるだけじゃないの?」 「だったら、さっさと売っちゃうでしょ。経済的に苦労させたくないのと、あと自分の目の届くところに居て欲しいんだろうなあ、って俺は解釈したけど」 けいちゃんの言うとおりなら、お父さん甘すぎ。あたし、めちゃくちゃ過保護に育てられた、って感じじゃん。 「家はね、リフォームとかリノベーションとかすれば、綺麗になるし、まだまだ住めると思うよ。家賃いらないなら、その分家具やリフォーム代に掛けられるしね。千帆は、どんな家に住みたいの?」 改めて聞かれると、なんだか気恥ずかしいイメージしか浮かばない。 「や、やだ、笑うから」 「笑わないから言ってみて」 本当かなあ、危ぶみながら、あたしはひとつずつで具体的イメージを挙げる。 「えっとお、まずキッチンはふたりで立てるくらい広くって、リビングの様子も見える対面式がいい。それで、リビングはフローリングで、おっきいテレビとソファ置いて、けいちゃんと映画とか観たい。んで、お風呂も広い方が良くて…」 「一緒に入りたいから?」 「ち、違うもん、半身浴とかしたいから、足伸ばせるくらいのじゃないと困るんだもん」 「あー、俺大体湯船足ぶつかる」 けいちゃん足長いからね。一緒にお風呂とか入ったことないけど、一緒に暮らしたら、やっぱりそういうこともある…? いやいや、お父さんとお母さんがうちのお風呂に一緒に入ってるとこなんて、想像出来ないし。 「あと、あと…」 うーん、18年生きてきて、『理想的な新婚生活』なんか考えたこともなかったから、イメージが貧困かつオリジナリティがまるでない。
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