第10章 聖夜の奇跡

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「着いたわよ、慧史」 変に眠ってしまったせいで、襲ってきた頭痛に顔をしかめながら、アパートの外階段を上った。 「鍵、その辺に置いておいて。開け放しで帰っていいから」 みつきにそう言って、俺はベッドに潜り込んだ。ダメだ、眠い、頭痛え、もうふらふらで、体力も気力も限界で、みつきのその後の動向を気にしてる余裕なんてなかった。 千帆の夢を見た。夢の中でも千帆は、泣いてた。 『ごめんなさい、けいちゃん。あたしが悪いの、お父さんにちゃんと言っておかなかったから…。それに、お父さんひどい。あんな風に頭ごなしに』 あの日の千帆だ。最近、そればかり思い出すのは、千帆と接してないからかな。『泣くなよ』って、千帆を慰めようと両手を伸ばしたところで、急に目が覚めた。 そして、千帆が俺の腕の中に飛び込んでくる。どっちが夢かわかんなくなるくらい、混乱た。でも、腕の中の千帆は確かに感触があるし、「けいちゃん」って呼んだ声も、まだ鼓膜を震わせてる。 「あれ、千帆…どうして…」 「どうして、じゃないよ」 どうやら本物の千帆らしい。 「ごめん、心配掛けた?」 「死ぬほど心配した」 「こんなんで死なないでよ。つか、お前、こんなとこ来ちゃダメだろ…」 いつまでも感じていたい温もりを、俺は腕に力を込めて遠ざけた。途端に千帆の顔が悲しげになる。そして、まだ部屋にいたらしいみつきにまで、「帰りなさい」と命令されて、千帆は頑なに嫌だと言い張った。 「千帆、ごめん。ちょっと待ってて」 中途半端に一方的に終わらせた関係を、きちんと精算しないと、俺も千帆もみつきも、前に進めない。 みつきが俺にいつまでも拘るのは、結局俺がみつきから逃げ続けて、まともに向き合ってこなかったからなんだ。どうしてだろう、みつきと一緒にいた頃よりも、皮肉にも今の方がわかる気がする。 みつきの気持ちも、自分が取るべきだった行動も。
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