第2章  寂しさの色は《和助》

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「あの人は毎晩ただ 僕を抱き締めて、 ときどき泣いてた。 ねぇ、紗和さんて 子供でも亡くしてる? 結局 何も聞けないまま 逝かれちゃった」 兄さはしげしげと僕を見ると、 ああおめぇの 言う通りだよと言った。 「あいつは、紗和は、 おめぇくらいの年の頃に 嫁ぎ先で男の子を生んだ。 でもそのガキが三つの時に 近所のガキふたりに 追いたてられて、 着物脱がされて、 逃げて逃げて、 田んぼの側溝に落ちて。 そのまんま誰にも 見つけられずに   明け方 凍死しちまった」  そん年の初雪が降った 寒い朝でなぁ、と かすれた声が結んだ。
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