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「あの人は毎晩ただ
僕を抱き締めて、
ときどき泣いてた。
ねぇ、紗和さんて
子供でも亡くしてる?
結局 何も聞けないまま
逝かれちゃった」
兄さはしげしげと僕を見ると、
ああおめぇの
言う通りだよと言った。
「あいつは、紗和は、
おめぇくらいの年の頃に
嫁ぎ先で男の子を生んだ。
でもそのガキが三つの時に
近所のガキふたりに
追いたてられて、
着物脱がされて、
逃げて逃げて、
田んぼの側溝に落ちて。
そのまんま誰にも
見つけられずに
明け方 凍死しちまった」
そん年の初雪が降った
寒い朝でなぁ、と
かすれた声が結んだ。
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