第3章  リボン   《辰乃》

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萌黄野の色褪せて 初夏の風吹けば、 梅雨明けに売り出す 水まんじゅうの 新作の試作が始まる。 半透明の薄皮の中に、 今年はどんな水菓子が入るのか。…… えんじ色の銘仙(=安価な絹の着物) の仕事着にたすきを掛けていると、 咲子が赤い顔をして出勤してきた。 髪に一斤染め(=ややくすんだピンク) のリボンをつけて。 こちらから聞くまでもなく 咲子の小さな唇がほころんだ。 「その、いただきものなんです。 きっと似合うと彼が……言うから」 恥ずかしそうに顎を引く咲子は、 女の私でさえ抱き締めたくなる 愛くるしさだ。   お姉さまとお揃いね、 と屈託なく笑えば こちらまで幸せな気持ちになる。
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