第5章  翳り 《辰乃》

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和助が前に言いかけていた   新しい甘味所とは ここかもしれぬと思った。 確かに、 一度入ってみるのも悪くない。 気分よく眺めていると 店から一組の男女が出てきた。 私はこのとき ふたりの前ではなく後ろにいた。 だからすぐには 気づかれなかったのが、 良かったのか悪かったのか そんなのは分からないし 今となってはどうでもいい。 ……私は阿万音の 後ろ姿が好きだった。 だから顔など見なくとも 一瞬で分かってしまった。…… 隣に並んだ女性のひとは  咲子だった……。 阿万音はこちらを振り返っても、 じっと咲子だけを見ていて 私には気づかない。 阿万音が咲子にくれた 別れ際の抱擁は とても情熱的だった。 強く寄った眉間が 狂おしい心を伝える。 四辻の別れ際に、 私にくれるそれよりも ずっと激しい……。
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