第5章  翳り 《辰乃》

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咲子と以前交わした言葉が  ゆらゆらと頭をよぎる。ーー 『小間物を与えれば 喜ぶと思うのは どこの男も同じなのだな』 『ふふ。もしかしたら お姉さまの好い方と、 私のあの人とは 似たようなご気性の 方なのかも』 似たようなーー… 同じ人。…… 『このリボンはいただいたのです。 彼が……きっと似合うと言うから』 1斤染めのリボンなど、 私が選ぼうとすれば きっと阿万音は 子供っぽいと言うだろう。 でも、その 子供っぽい色の似合う咲子を 阿万音は選んだ……。 阿万音の胸に 体を埋める咲子は こちらには気づかない。 ついに顔を上げた阿万音と 目があった。    驚きに見開かれたその表情は、 困惑し 申し訳なさそうに歪んでいく。
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