第5章  翳り 《辰乃》

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別れの道は 景色のすべてが 白い霧に飲まれたように おぼついて良く見えなかった。 どこをどう歩いたのか、 気付けば家に帰りついた私は 居合いの真剣を手にして また家を出ていた。 なぜそんなことをしたのだろう。 阿万音との最初の出会いを 無意識に思い出していた…… のかも、しれない。 布にくるんだ剣を抱えて ふらふらと土手を歩けば 江戸川の水面が 涼しげに煌めくのが目に映る。 足の向くままに土手を降りて、 砂利を踏みしめ しゃがみこんで 水面に顔を映した。
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