第5章  翳り 《辰乃》

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……なんて情けない顔…… 狐のように強いばかりで ちっとも可愛くない。 『辰乃の 女々しゅうないところが 気に入ったのだ』 そう言って、 たいそう女々しい 咲子を選んだのは 誰……。 『女々しゅうないところが……』 「嘘つき!」 嘘つき、嘘つき、   「……嘘つき!」 『滝のような髪だな』   だったら何、 髪なんか伸ばしたって 私を見てなど くれなかったくせに! 伸ばせば可愛く見えるかも、 なんて 愚かしく考えていた自分が 恥ずかしくて情けない。 「うっ……」    私は泣きながら 真剣を取り出して、 鞘から抜いた。ーー
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