第5章  翳り 《辰乃》

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鈍く光る刀身はいつも 迷いなく美しい。 とりえのない私は、 これを持てばその美しさが 手に入りそうな気がして、 それで 居合いを始めたのだ。…… 『もうすぐ私の弟が 結婚することになってな』 『従姉妹のお姉さまが 明治神宮で式を挙げられて、 そこで出会った方ですの』 阿万音の声と咲子の声が 頭の中で入り交じる。 私は咲子に 阿万音を会わせたことは なかったし、 名も明かさなかった。 でももし会わせていたら、 咲子は阿万音を 選ばなかっただろうか。 きっと選ばなかったと…… いや、分からない。 現に阿万音は 私を裏切った。    人の心なんて、分からない。
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