第5章  翳り 《辰乃》

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「何でこんなこと、 どうしたっていうの」 「……お前こそ、 こんなところになぜいる」 和助だった。 真剣を奪った手が震えている。 剣など 手にしたことがないのだろう。 「なんでって、 だって僕んチあそこ」  「は?」 和助はすぐそこの 河川敷の端に建つ 今にも崩れそうな あばら家を指差した。 私が怪訝な目を向けると、 和助はやや憤慨した。 「な、なんだよ そんな目で見ないで。 老舗店のお嬢さんの辰乃には ちょっと分かんないかも しんないけど、 人にはいろいろ   事情ってもんがあってね」 「……。あっ、いや、悪かった」   「……えっと、違うよ? 僕 べつに 住所不定の人とかではないよ   片足突っ込んでるのは確かだけど。 って、僕のことは この際どうでもいいよ」
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