第一章

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その日、私は約10年ぶりにパチンコ店へと足を踏み入れた。 1人で来るのが始めてだった私は、店内の爆音に引きつつも、どんな台がいいのかわからず、適当に空いている台に腰を降ろす。 何とかお金を入れる場所を見つけ、玉の貸し出しに成功すると、挙動不審に辺りを見回した。 みんな、左上を狙って打っているような気がして、それを真似してみると、回転するようになった。 しかし、何がどうなれば当たるのかすら分からず、あんぐりと口を開けたまま、ひたすら画面を見つめる。 5000円ほど使った時に、ついに当たりが来た。 しかし、やっぱりどうすればいいのか分からず、右打ちしろとの指示に従い、右打ちを開始した。 大当りが終わると、130回の時短に突入した。 だが、これもよく分からず、とりあえず右打ちを続ける。 すると、再びスーパーリーチから大当りへと突入した。 これは、保留玉が特別なものが出ると当たるのか? と理解し始めたのは良いが、中々終わる気配がない。10連に突入したあたりから、右腕が痛くなってきた。 それでも大当り→確変→大当りの連鎖は止まらない。 15連にまで到達したその頃には腕はガクガク震え、喉は渇き、トイレにまで行きたくなった。 しかし、そこはパチンコ初心者。ハンドルを戻し、保留玉を使いきって席を立つなんて発想は浮かばない。 20連を超えたあたりから、台に向かって「もういいよ、お前は凄いよ。だからもう終わろう?」と話しかけるようになった。だが、一向に終わる気配はない。 そして、ついには30連を超えた。頭の中は腕の痛みと飲み物とトイレでいっぱいだ。 「誰か、助けてー!」 しかし、騒がしい店内に、その悲鳴は虚しくも掻き消されていくのだった。
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