籠城

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「そこのコンビニでトイレを借りよう」 一台のワンボックスカーが、コンビニの駐車場に止まる。 街の中のコンビニで書き入れ時の時間を外れている為か、ワンボックスカー以外に駐車場に止まっている車は、配送のトラックだけだった。 中学生の兄の後ろから車を降りた、小学校低学年の女の子が父親に声をかける。 「お父さん! アイス買って」 それを聞き、スライドドアを開けたまま後部座席に寝転がっていた母親が、娘に声をかけた。 「あたしの分もお願い」 「来ないのか?」 走りだそうとする娘の手を握り、父親が母親に声をかける。 「うん、寝ているわ」 その返事に父親は肩を竦め、娘の手を引きコンビニの店内に入って行く。 トイレを済ました父親が店内を見渡すと、雑誌コーナーの前に群れている中高生位の男の子達が、外を指差し騒いでいる。 父親は外を見た。 ワンボックスカーの開いたままのスライドドアから中に身を乗り入れ、数人の男女が妻に乱暴を働いているのが見える。 彼は店員に警察に電話するように頼み、カゴをぶら下げて彼の下に近寄ってきた長男を連れ、妻の下に急ぐ。 悲鳴を上げ、助けを求めている妻に覆い被さっている男の両肩を後ろから掴み、妻から引き離しそのまま路面に叩きつける。 そして彼は気が付いた。 引き離した男の口元が真っ赤に染まり、その口には妻の物と思われる肉片がくわえられ、その肉が咀嚼されている事に。
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