籠城

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引き離した男の口元に見入っていた彼の耳に、別な悲鳴が響く。 そちらを見る彼の目に映ったのは、反対側のスライドドアから妻に覆い被さっていた女の腕を引っ張っていた長男の腕に、長男の後ろから近寄ってきた青白い顔の老人がかじり付いている姿である。 彼は息子の下に行こうとしたが、それは叶わなかった。 青白い顔でノロノロと近寄ってくる者達が次々と現れ、彼に掴みかかって来たからである。 コンビニの女性店員2人が手にモップや、オーナーが防犯の為に控え室においていた木刀を持ち、店外に出てこようとしたのを、配送トラックの荷台で次の配送先の商品を整理していた男が、押し止め店内に押し戻しながら怒鳴った。 「ありゃあゾンビだ! 近寄ると喰われるぞ。 おい! お前ら! バリケードを築くから手を貸せ」 男は自動ドアのスイッチを切り、雑誌コーナーの前で騒いでいる中高生達に怒鳴る。 中高生達はゾンビの言葉に笑い声をたてたが、ワンボックスカーの下に走り寄った親子が、食い殺されたのを見て、慌ててバリケードを築くのを手伝う。 その最中トイレから出てきた女の子が、バリケードを築く騒動に立ちすくみ、次いで外を見て大声を上げる。 「お父さん――! お兄ちゃん――! ヒィ! お母さん――! 」 彼女の目に映ったのは、複数の者達に貪り食われる父と兄、それに血まみれの姿で近寄ってくる母親だった。 女の子はバリケードが築かれたドアから外に出ようとしたが、若い女性店員が彼女を背後から羽交い締めにして、控え室の方へ引きずって行く。
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