籠城

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男は屋根の上に上がる穴にしがみつき、「押し上げて」と騒いでいる女の背中と腰を掴み、引きずり下ろすようにしながら、控え室に入って来たゾンビの群れの中に放り込む。 奴らが女に掴みかかっている隙に、男は屋根の上に這い上がった。 屋根の上に這い上がったあと、車のエンジン音が聞こえた辺りを覗き込む。 乗用車がガラスを突き破り、店内にめり込んでいた。 幸いな事に火は出ていないようである。 翌朝、明るくなった頃目を覚ました男は、足音を忍ばせ店舗の周りを眺めた。 ゾンビの数が昨晩よりかなり少ない。 今なら逃げられる。 男はまだ寝ている女性店員と女の子の方を見るが、声をかける事も無く、木刀を持ち助走をつけて配送トラックのコンテナの上に飛び乗った。 女性店員は男がコンテナの上に飛び乗った音で目を覚まし、男が2人を見捨て1人で逃げようとしている事に気が付き、彼女もコンテナの上に飛び乗り、走り出したトラックの上を這いずり、運転席の屋根の上から運転席の窓ガラスを叩く。 男は屋根の上の女性に気が付くと、急ブレーキをかけ屋根から女性を振り落とし、路上に叩きつけられたのを確認して、トラックのアクセルを踏む。 トラックのコンテナに人が飛び乗る音で目を覚ました女の子は、屋根の上にただ1人取り残された事に気が付き、走り去るトラックの後ろ姿を見送った。
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