123人が本棚に入れています
本棚に追加
/233ページ
ステージ正面奥には、汗を散らしながらスキンヘッドを振るドラムス。左には外国人のような風貌の、背の高いベースが重低音を奏でている。
右では金髪を振り乱したタトゥーだらけのギターが踊り、そして中心では、黒髪のボーカルがギターを抱え、マイクへ噛みつくように歌っていた。
(誰……?)
目が、離せない。
歌は切ない旋律と叫びを繰り返し、ノイズで創られた楽曲と絡み合う。それがうねりながらフロアへ叩きつけられ、たまらない爽快感を生んだ。
後ろから伸びた手に頭を小突かれ、背や肩に何かがぶつかるのも気にならない。ただ愛美はそこに立ち尽くし、圧倒されていた。
あっという間に迎えた一曲目のエンディングに、拳と歓声が上がる。曲の余韻を味わう暇もなく、ボーカルは正面を睨み、ガツリとマイクを掴んだ。
「ダイブ!」
叫んだ直後、光を伴った音が弾けた。
息を吐かせぬほどの早いビートに客達は叫び、モッシュを繰り広げる。最中にいる愛美も、問答無用で全身を揺すぶられた。
そのうちに前に立つ客の何人かが、背から後ろの客に飛び込み始めた。いわゆるダイブだ。
最初のコメントを投稿しよう!