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なんてまぬけなんだろう。酔っていたとはいえ、ラブホテルまで来て、変顔で遊ばれるなんて、雄介に女だとすら思われていない証拠だ。
げらげら笑いながら、涙が出る。目覚めて、驚くようなことなんて何もなかった。何の心配もいらなかったのだ。
「ふふふふ、あーもう、バカみたい。笑いすぎたあ……」
そっと目尻を指先で拭い、抱えていた上掛けを横へ置いた。
こんなものはもういらない。恥じらう必要もない。
「俺も。あー、喉渇いた……」
雄介は大きな溜息を吐いて、ベッドから降りた。
備え付けの冷蔵庫を開け、お茶のペットボトルを取り出す。封を切ってラッパ飲みしたあと、半分残ったそれを持って、またベッドへ戻って来た。
「飲む?」
差し出されたボトルを受け取り、二口飲んだ。その間に雄介はベッドのふちへ座った。
「一応、説明する?」
「うん」
素直に頷くと、雄介はコトの経緯を語った。
キエフの大門を弾き終わったあと、雄介とタツが乱闘になった。
周囲が慌てて止めに入る一方で、愛美は再びピアノの前に座り、もう一曲弾き出した。そして弾いている途中で、スイッチが切れたように眠ってしまった。
雄介は、額で不協和音を奏でる愛美を何とか起こし、打ち上げから引きずり出した。
そのまま送ろうかと思ったが、こんな状態の愛美を、具合の悪い有希のところへ帰すわけにもいかない。困ったあげく、近くの手ごろなラブホテルに連れて来たのだった。
「うわ、そうだったんだ……」
「さすがに俺んちにも連れてけねーしよ。親父にマジぶっ殺されるわ、愛美ちゃんこんなにして、お前はなにやってたんだって」
「そうだよね、ごめん、迷惑かけて」
「いや、離れた俺も悪い……つうか、タツが一番悪いんだって。アイツ、面白がってお前に飲ませたんだって?」
「あ、ああ、まあ。はははは」
「つうか、お前も飲むなよ」
「……すいません」
しおらしく頭を下げると、雄介は笑いながら立ち上がった。
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